個人間で離婚に関わる約束事を取り決めるとき、あるいは家族などに遺言を残すときや、複数の当事者間で契約を交わすときなど、さまざまな場面で文書は作成されます。
文書を交わすことで取り決め内容などを客観的にも示すことができるようになるのですが、文書を作成していてもトラブルが起こるリスクを完全に排斥することはできません。しかしこれを「公正証書」として作成することで、私文書だと起こりやすい問題でもそれを避けやすくなるなど、種々のメリットを得ることができます。
公正証書の作成で、具体的にどのようなメリットが得られるのでしょうか。重要な文書を作成しようと考えている方に向けて、デメリットも含めて公正証書について紹介していきます。
「公正証書」については、“公務員たる公証人が、私人からの嘱託を受けて、その権限に基づいて作成する公文書である”と説明できます。
世の中にはさまざまな名称の文書があります。「金銭消費貸借契約書」や「売買契約書」、「離婚給付契約書」、「遺言書」、その他いろいろな文書を私人も作成することができます。
しかし公証人と呼ばれる公務員に、公文書として作成することを依頼すれば、それらの文書についての公正証書が作成できます。
上記の通り、契約書などのさまざまな文書は私人でも私文書としてなら作成することができます。しかしこれをあえて公正証書として作成することで、次に挙げる4つのメリットが得られます。
1.証明力の高い文書が作れる
2.強制執行が簡易・迅速にできる
3.原本が安全に保管される
4.心理的プレッシャーを与えることができる
各メリットの詳細を以下で説明していきます。
そもそも契約書等の文書を作成することには、「取り決め内容を客観的・対外的に示す証拠を作る」という目的があります。
ただ、文書があるからといってそこに記載されている内容が絶対的に正しいということにはなりません。
例えば争っている相手方が「そんな文書は作成していない。勝手に作られた文書だ。」などと主張して、結果的に文書に記載されている内容を証明できなくなるリスクもあります。
この点、次の通り、公正証書であれば私文書より高い証拠力が認められています。
文書は、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認めるべきときは、真正に成立した公文書と推定する。
公証人は公務員であり、公正証書はその公証人が職務上作成するものです。
よって、公正証書は、法律上“真正に成立した公文書”であると推定されます。結果、その文書は作成名義人の意思に基づいて作成されたことの評価を受けやすくなり、文書に関する紛争リスクを回避しやすくなります。
公正証書の特色としてよく注目されるのが「執行力」です。
執行力とは、裁判をすることなく強制執行を簡易・迅速に実行できることを意味します。
強制執行とは、裁判所が債務者の財産を差し押さえて債権の回収を図るための手続のことです。
よって、金銭債権に関しては、公正証書に記載した内容を相手方が守らないときでも強制的に義務を履行させることができるということです。
※公正証書作成時に「強制執行認諾文言」を付している必要がある
私文書の場合、文書の内容が正確であることが示せるとしても、勝訴判決等を得てからでなければ強制執行をすることができません。そのため勝てる裁判でも、義務履行の確保まで手間も時間もかかってしまいます。
私文書の場合、基本的に原本は当事者が責任を持って保管する必要があります。
一方、公正証書の場合、原本は公証役場に保管されます。
そのため紛失の心配をする必要がありませんし、改ざんなどのリスクにさらされることもありません。
手間ひまかけて、そして費用もかけて公正証書という文書を作成することで、「約束の内容は守らないといけない」という心理的なプレッシャーを与えることもできます。
強制執行を行うことなく、相手方が任意的に履行をしてくれるのが理想です。
「強制執行されるかもしれない」「裁判になると負けるだろう」と思わせることで、素直に対応してもらいやすくなるのも公正証書のメリットです。
公正証書を作成することにはデメリットもあります。
1つは「作成をするのに手間がかかる」という点です。
私文書であればどのような形式で作成しても基本的には問題ありません。しかし公正証書を作成するためには、まず公証役場に連絡をし、公正証書を作りたい旨を伝え、その期日の予約を行わなければなりません。
次に公証人に公正証書の内容を伝え、必要に応じて関係資料も提示します。その後作成された公正証書案を当事者が確認。内容に問題がなければ原本の作成を進めます。
そのため、いつでも好きなタイミングで作成できるものではありません。
もう1つのデメリットは「作成するのに費用がかかる」という点です。
公正証書の作成に関して、公証人手数料令で手数料が法定されています。手数料の額は下表の通り、文書に記載する“目的の価額”により異なります。
目的の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 |
5000円 |
100万円を超え200万円以下 |
7000円 |
200万円を超え500万円以下 |
11000円 |
500万円を超え1000万円以下 |
17000円 |
1000万円を超え3000万円以下 |
23000円 |
3000万円を超え5000万円以下 |
29000円 |
5000万円を超え1億円以下 |
43000円 |
1億円を超え3億円以下 |
4万3000円に超過額5000万円までごとに1万3000円を加算した額 |
3億円を超え10億円以下 |
9万5000円に超過額5000万円までごとに1万1000円を加算した額 |
10億円を超える場合 | 24万9000円に超過額5000万円までごとに8000円を加算した額 |
離婚時に取り決めた慰謝料・財産分与・養育費の支払いを公正証書とする場合、それぞれの目的の価額に対応する手数料を表から探し、それらを合計することで全体の手数料を算定します。
ただし定期給付となる養育費の支払いなどは、10年分のみの金額が目的の価額になります。
公正証書を作成することにはメリットもデメリットもあります。
ただ、デメリットよりもメリットの方が大きくなるケースの方が多いと考えられます。費用対効果なども考慮し、公正証書を作成すべきかどうか、検討すると良いでしょう。
公正証書を作成すべきかどうか、内容をどうするか、お悩みの場合は弁護士に相談することをおすすめします。弁護士に依頼することで費用は別途発生しますが、公正証書作成にかかる手間は削減されます。「できるだけ安全に文書を作成したい」「とにかくトラブルは避けたい」という方も、より安心して手続を進められるようになるでしょう。