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債務整理における特定調停とは?特徴や手続の流れなど概要を解説

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債務の返済で困ったときに行う債務整理という手続があります。これは法的手続や私的手続も含めた総称です。詳細に見ていくと自己破産や民事再生、任意整理などがあるのですが、その1種に「特定調停」と呼ばれる手続もあります。
債務整理として主流ではないものの、毎年数千件ほど利用されている手続であることは事実です。当記事ではこの特定調停とは何なのか、概要を解説します。

 

特定調停とは

特定調停は、債務が返済できないおそれのある債務者(この手続上は、「特定債務者」と呼ばれる。)の経済的な再生を図るための手続です。特定債務者の金銭債務について、利害関係を調整することで経済的再生を目指します。

経済的な破綻のリスクを有する人物であればよく、法人でも個人でも特定調停は利用できます。支払不能の危険がない段階の法人・個人は特定債務者となることはできませんので、債務の弁済により生活ができなくなる人、事業継続に支障をきたす法人であることが前提です。ただし、事業者でなくても問題ありません。

性質としては、一般的な調停手続とも共通しており、債権者との合意の成立が必要です。調停が成立したときはこれを調書に記載し、確定判決と同等の効力を得ることができます。成立した調停の内容に従い債務者は弁済すれば良く、それ以上の取り立てを受けずに再生を目指すことができます。

 

自己破産との違い

債務整理の1種に、「自己破産」があります。こちらも法人・個人問わず利用できる手続で、支払不能になっていることなどを条件に申立てが可能です。

ただ、自己破産と特定調停には大きな違いがあります。

自己破産では財産の処分が必要で、個人の場合は生活に必要な最低限の財産以外は手放さないといけなくなります。自宅を持っている方、自動車を持っている方などは、それらを売却することになるでしょう。
法人の場合は破産手続終結に伴いその存在が消滅します。

一方、特定調停では財産の処分が必要ありません。経済的再生を目標とする手続ですので、法人が消滅することもありません。

 

任意整理との違い

債務整理の1種に「任意整理」もあります。

任意整理は、裁判所を介さずに行う私的手続です。債権者と個人的な交渉を進めることにより債務額の圧縮や支払期限の猶予をしてもらう、といった内容になります。どちらも債権者の合意が必要になる点は共通していますが、裁判所が関与しない点で相違します。

公的な手続でないことにより、債権者の対応も変わってきます。また、確定判決と同等の効力が得られるかどうかにも違いがあります。

 

特定調停の特徴

特定調停の特徴をいくつかまとめます。

特定調停の特徴
申立て手続が簡単

申立てにあたっての準備が比較的楽。
申立書と調査表等に必要事項を記入して提出する。借入先や現在の債務額、資産・収入・支出などの情報を整理すれば良い。

申立て費用が安い

債権者が1社である場合、収入印紙500円と予納郵便切手代の数百円だけで申立てができる。
債務整理を弁護士に依頼する場合数万円から十数万円程度は最低でも必要になってくるが、特定調停では裁判所が手続を案内してくれるため弁護士を利用しないことが多く、低コストで済みやすい。

将来利息の免除・軽減

調停委員会が、調停成立後の将来利息について、免除あるいは軽減するように債権者と話し合ってくれる。

手続が非公開

裁判所を利用する手続ではあるが、一般的な裁判とは異なり、非公開で行われる。秘密が厳守され、他人に知られずに済む。

調停委員が間に入る

債権者との純粋な直接交渉ではなく、調停委員が間に入ってくれる。任意整理を債務者自身が対応しても不利な立場に立たされる可能性があるが、特定調停だと公平な結果となるよう、両当事者の意見を聞いて取りまとめてくれる。

 

特定調停の利用にはいくつかの利点がありますが、良いところばかりでもありません。

例えば、「債務元本の減額」を特定調停に期待することはできません。自己破産や民事再生のように、債務自宅をなくしたり減額したりすることは難しいです。特定調停に期待できるのは、将来利息の免除により負担を軽減すること、分割回数や支払期限について譲歩してもらうこと、くらいでしょう。

そもそも調停が成立しないケースも珍しくありません。結局のところ債権者との交渉を行う手続ですので、公的手続とはいえ成立のためには相手方の同意が欠かせません。

こうした難点もあり、盛んには利用されていません。「裁判所データブック2022」によると、特定調停事件の「新受」件数は平成12年時点で約21万件。平成21年には10万件を切り、平成24年には1万件も切るまで件数が減少しています。

令和に入ってからの件数を見てみると、令和元年には「2,992件」、令和2年には「2,421件」、令和3年には「2,271」と減少傾向にあることが示されています。

債務整理の最終手段ともいえる自己破産でも、毎年数万件は申立てが行われています。任意整理について公的なデータは出ていないものの、自己破産より格段に件数が多いと考えられます。他の任意整理と比較してみると、特定調停の利用の少なさが目立ちます。

 

特定調停の流れ

特定調停は、簡易裁判所で行われます。債権者の住所・居所、営業所・事務所の所在地を管轄する簡易裁判所に対して申立てを行います。
特定調停の申立て後、裁判所から債権者に対して申立書の副本と申立受理通知等が郵送されます。

手続の進み方としては、まず、債務者から事情を聴く期日(事情聴取期日)が開かれ、その後債権者と債務額の確定・返済方法について話し合う期日(調整期日)を開くのが通常です。

●事情聴取期日
債務者だけが裁判所に出向いて、現在の生活状況、収入、これからの返済方法について話す。

● 調整期日
債権者も裁判所に出向いて、返済方法などを調整する。債権者の出頭は必須ではなく、調停委員が債権者と電話して調整を進めることも認められる。債務者は現実的な弁済計画案を策定し、当該計画案についての債権者の意見も取り入れつつ、調停委員が妥当な返済方法の調整を行う。

調整の結果、合意に至ったときは、調停成立により手続は終結します。全体として、2~3ヶ月ほどの期間を要することが多いです。調停成立後は、債務者は弁済計画の内容に沿って、返済を続けていかなくてはなりません。
なお、計画通りに返済を実行できない場合、強制執行により財産を差し押さえられることがありますので要注意です。

特定調停で解決するのが難しいときは、他の手段も検討しましょう。その他の債務整理の手続、債権者とのトラブルについて不安・悩みがあるときは弁護士に相談することをおすすめします。