交通事故に遭うことで治療費や休業損害、通院交通費などさまざまな損害を被る可能性があります。もっともこれらは現に被害者の方が支出しているなどの理由から比較的容易に損害額を計算することができます。
一方で、精神的・身体的苦痛への賠償として支払われる慰謝料については、各人の苦痛の大きさを正確に計算して「○○万円」などと算出することは困難です。そこで治療期間など、客観的に評価できる情報を基に計算するという運用がなされています。
そのため慰謝料についても金額の相場を把握することは可能です。ここで慰謝料の種類別にその相場を紹介していきます。
交通事故における慰謝料は3種類に分けて考えます。
慰謝料の種類 | 詳細 |
---|---|
入通院慰謝料 (傷害慰謝料とも呼ぶ) |
人身事故により怪我を負ったこと、治療や入院をしないといけなくなったこと、に対する慰謝料 |
後遺障害慰謝料 |
人身事故により後遺症が残ったことに対する慰謝料。後遺障害等級に認定されることで請求が認められる |
死亡慰謝料 |
人身事故により死亡したことに対する慰謝料。被害者本人に対する慰謝料や、その家族に対する慰謝料などがある。 |
それぞれ請求できる条件が異なりますし、金額の相場なども異なります。
冒頭で述べた通り、慰謝料は被害者の精神的なショックや身体的な苦痛に対する賠償金のことであり、厳密に損害の大きさを算定することは困難です。
そこで算定基準を設け、その基準に照らし合わせることで慰謝料の額を算定するとの運用がなされています。
ただ、請求方法により採用される算定基準は異なり、次の3種類の算定基準に応じて請求できる額にも差が生まれます。
● 自賠責保険基準
●任意保険基準
● 裁判基準
自賠責保険は、交通事故の被害者救済を目的とした強制保険であり、「加害者に十分な資力がない」「加害者が任意保険に加入していない」という場合でも補償が受けられる仕組みになっています。ただし最低限の補償であって、十分な額が得られるとは限りません。そのため自賠責保険基準で計算するケースでは比較的低額になりやすいです。
任意保険基準は、加害者の加入する任意保険を提供する、保険会社独自の算定基準のことです。事故後、示談交渉を持ち掛けられたときに提示される金額はこの任意保険基準によるものです。自賠責保険基準よりは高額になりやすいですが、算定基準の内容が公開されているわけではありませんし、明確に基準として設けられているかどうかも明らかではありません。
裁判基準は、損害賠償請求に関する訴訟を提起し、裁判所でその金額について判断してもらうときの算定基準です。弁護士に示談交渉を依頼するとき、この算定基準に沿った請求を行うことになるため弁護士基準と呼ばれたりもします。他の算定基準を採用したときに比べて高額になりやすいです。
入通院慰謝料は、主に治療の期間に対応して具体的な金額が定まります。
なお、任意保険基準については明らかではなく保険会社によっても異なるため、以降は自賠責保険基準と裁判基準に焦点を当てて慰謝料の相場を説明していきます。
自賠責保険では、慰謝料のほか、治療費や文書料、休業損害なども含む補償がなされます。限度額が1名あたり120万円で定められており、複数の損害につき補償を求めるときでも、合計で120万円を超えることはできません。
そして慰謝料については、治療期間あるいは実治療日数に対応して「1日4,300円」と決められています。
簡単のため、1ヶ月を30日とし、1ヶ月まるまる治療を要したとして計算をすると、次のように慰謝料の額が算出できます。
治療の期間 | 慰謝料 |
---|---|
1ヶ月 |
12.9万円 |
2ヶ月 |
25.8万円 |
3ヶ月 |
38.7万円 |
6ヶ月 |
77.4万円 |
ただし実際は「治療の期間」と「実際に治療をした日数×2」を比べて、短い日数を用いて計算します。そのため上表に示した額より小さくなりやすいと考えられます。
裁判基準では、軽傷・重症の違い、そして通院をしたのか入院をしたのか、という違いも考慮して金額が定まります。
例えば同じ期間通院をした場合でも、軽傷より重症を負った方が高い慰謝料になりますし、同じ軽傷であっても通院で済んだ場合に比べて入院を要した場合の方が高い慰謝料になります。
そこで次のように算定することができます。
治療の期間 | 軽傷のときの慰謝料 | 重症のときの慰謝料 |
---|---|---|
1ヶ月 |
19万円 (35万円) |
28万円 (53万円) |
2ヶ月 |
36万円 (66万円) |
52万円 (101万円) |
3ヶ月 |
53万円 (92万円) |
73万円 (145万円) |
6ヶ月 |
89万円 (152万円) |
116万円 (244万円) |
※()は入院をしたときの慰謝料
治療期間6ヶ月で比較すると、自賠責保険基準では「77.4万円」でした。しかも2日に1回以上のペースで治療をした場合の金額ですので、裁判基準とは大きな差があることがわかります。
後遺障害慰謝料は、単に後遺症が残るだけで請求ができるものではありません。その後遺症が「後遺障害」として認定されなければなりません。
そこで損害保険料率算出機構の審査を受けるための手続を行います。
その後、後遺障害であることが認められると、その程度に応じた等級が定められます。
認定された後遺障害の等級に応じて慰謝料の額も定まります。この基本的な仕組みは自賠責保険基準でも裁判基準でも同様です。
下表にその算定基準に従った金額を一部示します。
後遺障害等級 | 自賠責保険基準の慰謝料 | 裁判基準の慰謝料 |
---|---|---|
(介護を要する)第1級 | 1,650万円 | 2,800万円 |
(介護を要する)第2級 | 1,203万円 | 2,370万円 |
第1級 | 1,150万円 | 2,800万円 |
第14級 | 32万円 | 110万円 |
後遺障害慰謝料についても、自賠責保険基準と裁判基準には大きな差があることが確認できます。
死亡慰謝料の場合、自賠責保険基準と裁判基準で算定の仕組みも異なっています。
自賠責保険基準では、死亡による損害への補償全体で限度額3,000万円と定められています。
そしてそのうち死亡慰謝料に関しては、「被害者本人の慰謝料として400万円」が支払われます。さらに遺族に対する慰謝料として、請求権者(被害者の配偶者、子ども、親)の人数に応じて次のように支払い額が決まります。
● 請求権者が1人:550万円
●請求権者が2人:650万円
●請求権者が3人以上:750万円
また、被害者の方に扶養をしている方がいるなら、200万円が加算されます。
よって、自賠責保険基準における死亡慰謝料は、最大で1,350万円ということになります。
裁判基準で算定する死亡慰謝料は、亡くなった方の家庭内における立場に応じて定まります。
家計を支えていたのか、その一家の支柱である方の配偶者なのか、あるいはその子どもなのかが、次のように金額に影響します。
● 亡くなった方が一家の支柱:2,800万円
● 亡くなった方が配偶者:2,500万円
● 亡くなった方が独身または子ども:2,000~2,500万円
ここでいう「一家の支柱」とは、家族を扶養する立場であることを指しています。そして上の金額は、扶養家族が3人いるケースを想定したものであるため、扶養家族がもっと多い場合など、事情に応じてこの金額は変動することに注意が必要です。
ここで紹介した慰謝料の金額は、あくまで相場に過ぎません。そのため個別具体的な事情に応じて金額が増減することもあります。
ただ、自賠責保険基準や任意保険基準などに比べて、裁判基準の方が高額になりやすいことに違いはありません。そしてできるだけ裁判基準に対応した慰謝料額を支払ってもらうには、交通事故に強い弁護士に依頼して交渉をしてもらうことが大事です。
弁護士に対応してもらうことで、相手方とのやり取りの窓口になってもらえますし、請求に係る手続や書類準備なども広く任せることができます。